ルールを変える

9月末で、長く続いてた学科長生活が終わりました。
2008年から、しばらくの中断を含んで、8年間の任期でした。
もう、しばらくは出番なさそうなので、ゆっくりとできそうです。

長の役割

学科長というのは、企業で言えばどのぐらいの役職になるのでしょうか。学科の長という文字通りの意味と、学部を運営するメンバーの一人という役割を持っています。
そして、少しずつ学部の自治は失われているものの、学部はかなりの独立性を持っています。
そう考えると、だいたい事業部の中心メンバー、課長ぐらいの位置づけなんでしょうかね。

そこで僕は、過去から蓄積されているが役割を終えていると思われる無数の仕事をリストラすることを主眼において来ました。
なんとなく惰性でやっている仕事とか、前任者がやりたくてやったけど、今は誰も積極的にやっていない仕事などを終わらせることです。
こういうものが残っていると、「いつかはやらねば」と奥歯にモノが挟まったような気分がずっと続きます。
それが嫌なので、終わらせるという決議を会議で1つずつしてきました。

どんな組織でも、過去の遺産的なものはけっこうあるもので、それを整理するのにはそれなりの調査や時間が必要です。
だから、学科長としてこういう仕事に手を付けると、あまり新しいことはできなくなります。
ほんとうはやりたいことがたくさんあったのですが、それほど手がけることができなかったのには、そんな事情がありました。

合意を作る

もちろん、学科長として残務整理と交通整理だけをしてきたわけではありません。
新しいこともそれなりに手がけてきました。
ただそれは、「前任者が勝手につくった」と言われないように注意しました。学科全体であるいは学部全体で取り組むものになるよう、基礎をしっかり固めて来ました。
発想の段階で異論をできるだけ聞きながら、でも本質は変えないようにしながら制度設計をしてきました。

一部の人が考えるように、「意見が出ないように作り込んでから発表する」というのとは本質的に発想が異なります。
できるだけたくさんの異論が出ることで、多くの人の考えを知ることができますし、意見を言った人は結局協力してくれます。

場合によっては、提案を引っ込めることもありました。
無理に押し通して実行することは簡単なのですが、実施してもみんなが協力しないのであれば意味がありません。
その辺は、決めたら組織として動く企業と、個人の集まりの大学との違いかもしれません。
僕は自分が管理職である以上、組織で取り組む事業は、組織として動けるようにしたかったのです。

ルールを作る

さて、学科長と一般の教員の違いとは何でしょうか。

それは、学科長がルールを作ることができる存在であることだと考えています。

今までみんなが当たり前のように思っていたルールに直接働きかけて変えるきっかけを作ることができるのです。
たとえ、学部規定でも、変更を運営会議で提案することができます。
教授会で大勢の中で提案するのとは違って、学部の限られたメンバーに向かって提案できるので、意見が通りやすいのです。

「え?そんなことできるの?」
とみんなが思ったことも提案してルールをつくってきました。
例えば、教授のみからなる教授会と、常に講師・准教授がオブザーバーとして参加する全体会議があります。以前の職場では、教授会がデフォルトで、全体会議はめったに開催されませんでした。
ちなみに、全体会議で講師・准教授は意思決定に参加できないだけで、意見を述べることはできます。

僕は教授の意見よりも、若手の講師・准教授の意見のほうが時代の要請に敏感だと感じています。
そこで、あまり意味を見いだせない教授会ではなく、全体会議をデフォルトにしました。

また、教員の控室を談話室に変えるべく、外部の業者を呼んできてコーヒーサーバーを設置したりもしました。

あるいは、学生を外部に連れて行って現地で調査をするフィールドワークという講義を以前の職場で立ち上げました。
事務との折衝がかなり必要でした。現地の大学と交流したり、自然体験学習を取り入れたり、さまざまな取り組みを導入しました。

などなど、取り組んだことはかなりあります。
そこに共通するのは、既存のルールの中で何ができるかではなく、ルールを変えると何ができるかという発想で取り組むことができたことです。

管理職につくのを嫌がる風潮があると聞きますが、僕は管理職、そんなに悪いものではないと思います。
むしろ、管理職になって、積極的にルールを想像していくことが大切ではないかなと感じます。